大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和28年(う)1306号 判決

公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するにはできる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないことは、刑事訴訟法第二百五十六条の規定するところであり、同条にいわゆる訴因とは罪となるべき事実即ち犯罪構成要件に該当する具体的事実をいい、その特定とは他の訴因と紛れることのない程度に、即ち同一性を認識させるに足る程度に、日時、場所、方法、目的物件等を記載して罪となるべき事実を特定することであることは多言を要しない。

本件公訴事実は、被告人は昭和二十四年七月頃より昭和二十七年二月初旬頃迄東京都港区芝琴平町一番地所在財団法人漁網検査協会の三重検査所長として四日市市東富田中町の同所事務所において同会の目的である輸出漁網等の検査並びにその手数料の徴収、保管等の業務に従事していたものであるが、昭和二十六年十月頃から昭和二十七年一月末頃迄の間右事務所において徴収した検査手数料合計金六十一万六千四百八十円より必要経費二十七万四千九百五十七円及び右協会本部に送金した金一万五千円を差引いた合計金三十二万六千五百二十三円を業務上保管中、その頃右協会本部に送金せず自己の遊興費等に費消する為、その都度同事務所において擅に着服して横領したのであるというのであるから、着服の所為は単に一回に止まらず多数回に亘つたものと推定され、従つて右公訴事実は包括した横領罪の一罪として起訴されたものであることは明白である。而して本件公訴事実として記載されている事実は、前記のように被告人が右三重検査所長として輪出漁網等の検査手数料の徴収、保管等の業務に従事していたという同一の社会的事実関係に基き、被告人が徴収した手数料を右協会本部に送金すべく預り保管するようになつた同一性質の金員を費消する為着服したというのであつて、その所為の態様は軌を一にしたものと認められるのであるから、単一又は継続した意思の下に着服したものと認められ、かつ被害法益も単一であるから、以上の所為は社会観念上包括した一個の犯罪と認めるを相当とする。従つてその全部を一体として審理の対象としたものということができ、包括した横領罪の一罪を起訴したものと認めることができる。

而して包括一罪と認められる横領罪については犯行の始期と終期、被害金の合計額、犯行方法等を記載すれば訴因は特定するものと解することができるから、本件起訴状記載の公訴事実が所論の如く各所為につき記載されるところがなくとも、訴因の特定に欠くるところなくまた公訴事実の記載に欠くるところがなく曖昧であるとはいえない。(尚所論は本件が着服横領か費消横領か明らかでないというが、本件公訴事実中「費用する為」とは着服の動機目的を記載したものに過ぎず、本件起訴が着服横領であることは起訴状自体により明らかである。)論旨は理由がない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!